乗車記録ブログその3です。
「コーカサス3国」とセットで呼ばれることも多い【アゼルバイジャン】【ジョージア(グルジア)】【アルメニア】の3国間を鉄路で移動したのでその記録です。カスピ海と黒海に挟まれた地域で、いずれもかつては旧ソ連に属していました。
移動経路はこんな感じです。この記事(前編)では赤線部分の移動について記します。(破線の箇所は鉄道以外で移動)
それでは参りましょう〜。
■アゼルバイジャン〜グルジア
移動区間【バクー(アゼルバイジャン首都 )〜トビリシ(グルジア首都)】
カスピ海沿いのアゼルバイジャン首都・バクーから内陸部のグルジア首都・トビリシまで、夜行列車で一気に移動しました。寝台列車には慣れてきましたが、初めて鉄道で国境を越えたのでドキドキでした。
まずはバクー旅客駅で切符の購入です。この立派な建物は旧駅舎で、この横手に新しい駅舎がありました。
駅構内にあった運行掲示板です。トビリシ行きの下にモスクワやキエフ行きもあります。
切符の予約窓口と支払い窓口は別々なので注意です。予約手続きのあと番号を渡されるので、番号が呼ばれるまで支払い窓口の前で待ちます。銀行のような感じです。
翌日の切符を無事購入することができました。一番下のクラス「4ベッド開放型コンパートメント」の席でお値段25マナト(≒1,500円)です。他にも「4ベッド扉付きコンパートメント」や「2ベッド個室」タイプの席もあるようです。
翌日、 いつものように食料を買い込んで駅へ向かいます。
アゼルバイジャンは国民の大半がイスラム教徒の国ですが、特にアルコールは禁止はされていません。お酒もスーパーで普通に買うことができます。ちなみにヒジャブの着用義務もありません。
バクー駅のトイレは有料で、入り口で3マナト(≒200円)支払う必要があります。アゼルバイジャンのお金をほぼ使い切っていて財布には2.7マナトしか残っておらず、ダメ元でお願いしてみたら温情で0.3マナトまけて入れてくれました。トイレットペーパーは無かったのでそこは自分で用意する必要がありそうです。
こちらが本日の寝台列車です。なかなかレトロな感じです。
列車に乗り込むと名乗ってないのに乗務員さんから「あなた、○○(名前)?!😎」と言われました。アジア人の利用者が珍しくて覚えていたのでしょうか。
今まであまり乗ってこなかった、扉のない完全開放タイプのベッドです。座席にマットレス感はなくて、どちらかというとシンプルな皮張りのシートという感じ。座席の下が荷物入れになっています。乗客はそこまで多くありませんでした。同じコンパートメント(ボックス席)の利用者はロシア人男性1人です。
21時50分、定刻に発車です。
車輌が古いせいもあってか窓は汚れていてあまり外は見えないのですが、列車が動き出してすぐにバクーのきれいな夜景を遠くに見ることができました。石油採掘で潤ったアゼルバイジャンは別名「火の国」とも呼ばれているそうで、首都バクーのシンボルである「フレイムタワー」はまさに「火」を象っています。
それ以降は暗闇の中をひたすら走ります。
出発してすぐにグルジアの入国書類が配られました。記入に手こずっていたら、向かいの席のロシア人紳士が教えてくれました。この紳士、寡黙な人でしたが荷物の出し入れなど手伝ってくれて優しかったです。旅行中ひたすら優しい人に助けられているような気がします。私もどこかで受けた分の優しさを誰かに提供できればいいのですが。
疲れていて眠たかったので、検札が済んだら敷きマット、枕、シーツ、枕カバー、そして掛け布団替わりのシーツをセットして、早々に眠りにつきました。(リネンは配布されました)
起きたら6時過ぎくらいでした。外は暗い。
お菓子食べたりしながらボーっとして、たぶんアゼルバイジャン最後の駅へ到着したのが7時過ぎくらいだったかな。
国境の駅で停車して車内で出国審査があります。生まれてはじめての列車内での出国審査です。
パスポートを回収されて荷物チェックを受けた後、少ししてから車両の一番前のボックス席を使ったイミグレーションへ誘導されました。係員は机の上に置かれた丈夫そうな半開きのアタッシュケース(こちらを撮影するカメラつき)に入れたパソコンをカタカタしています。場所が列車のボックス席なだけで普通の出国審査と同じ要領でした。
無事に出国手続きを終えると、パスポートに列車の絵が入った出国スタンプを押してくれました。このスタンプ楽しみにしてたんです。うれしい。ビザの個人情報欄の上に押されたのでお見せできないのが残念。
出国審査はそんな感じで乗客1人1人を仮設イミグレーションこと先頭ボックス席まで呼び出して行うのでなかなか終わらず「長いな〜」と思って横になったら寝てしまい、気づいたら国境を越えていてグルジアの入国審査でした。
「荷物検査するぞ〜〜」と係員の方々が我々の席に来たのでロシア人兄さんに手伝ってもらいながらベッドの下の荷物入れからバックパック取り出したら、その大きさを見て面倒くさくなったのか結局中身は確認せずに定番の質問をされただけで済みました。係員と一緒に大きくてぶりぶりした麻薬犬も乗り込んできて面白かったです。特に問題は見つからなかったようで良かった。
パスポートの変なところにスタンプを押されたけど、無事入国審査も終わりました。
ボケーっとしてたら、近くの席にいた夫婦にニーハオと声かけられました(いつものこと)。トルコから来た夫婦だそうで、しばしおしゃべり。パンをいただいたのでこれを朝食としました。少ししょっぱめのお惣菜系のパンで美味しかったです。
グルジアに入ると、列車の墓場のような場所が長く続きました。きっともう使われることは無さそうな古い車輌が野晒しになってゴロゴロと放置してあります。
どんより曇り空なのも手伝って、重い冬の空気という感じです。
そうこうしている間にトビリシ中央駅に到着です。およそ13時間の旅でした。
トビリシに着いてもトルコ人夫婦と座席でおしゃべりを続けていたら、乗務員さんに「はよでてけ!!!!」と言われ、ヒ〜〜〜!すみません!と慌ててホームに飛び出しました。
トビリシ中央駅構内は、フードコート、小さい本屋さん等お店が入っているのである程度時間を潰すことはできそうです。私はここの携帯ショップでグルジアのSIMカードを購入しました。
このトビリシ中央駅、外観だけ見ると宇宙要塞的な感じで物々しく、垢抜けない独特なでっちり感があります。写真を撮ったつもりだったのですがデータが見当たらなかったので、もし興味があれば検索してみてください。
出発が夜で朝到着だったためほぼ闇の中を移動という感じの旅程でしたが、初めての国際列車でワクワクしました。イラン鉄道のような快適な寝台旅も良いですが、こういう思いっきりレトロな車輌も魅力的ですね。重々しい空模様もあいまって、なんだか燻銀な香りのする鉄道旅でした。
■グルジア〜アルメニア
移動区間【トビリシ(グルジア首都)〜エレバン(アルメニア首都)】
今回も国際寝台列車で首都から首都へ移動です。実は当初はアルメニアへ行く予定はなく、トビリシからそのまま沿岸部のバトゥミまで移動するつもりで切符も予約していました。しかし偶然出会ったコーカサス地方の達人のような旅人に「アルメニアはいいぞ〜!!」と布教を受けて予定変更。バトゥミ行きをキャンセルして、アルメニアはエレバン行きの切符を購入し直しました。お値段は49ラリ(≒2,000円)です。
余談ですが、グルジアは日本人の長期滞在旅行者をちらほら見かけました。おしゃれな町並みを楽しめるのに物価は安いし、酒も飯も美味い!という、旅行者的にはかなりナイスな街なので沈没(旅人が特定の土地で何もせずダラダラし続けること)するにはもってこいなのかもしれません。私も滞在中は毎日ビールとご飯をエンジョイしました。
列車は20時20分発。
いつものようにスーパーで晩酌セットを買い込み、トビリシ中央駅へ向かいます。
出発30分ほど前にホームへ降りると、バクー〜トビリシ間の列車以上にレトロな香りのする車輌が待っていました。いそいそと乗り込むと、車内が暗い。出発前だから電気がついていないようです。
座席部分が明るくなっても通路は薄暗いままでした。節電モードで運行しているのでしょうか。
車輌の構造はバクー〜トビリシで乗った時と同じく開放型コンパートメントです。どちらもなかなか古い車輌であることには変わりないのですが、あちらが無骨な旧ソ連車輌だとしたら、こちらは田舎の祖父母の家のような雰囲気でした。寝具の柄や壁の色のせいでしょうか。
同じコンパートメントの向かいの席はアルメニア人のご婦人でした。家族のもとへ帰るところらしく、イケメンな息子さんの写真を見せてくれました。
買い込んでいた晩酌セットに加えて、御婦人からキュウリ(見たことないくらい太かった)、パン、チーズ、チョコチップクッキーなどをお裾分けいただいて、豪華な晩餐になりました。私が持ち込んだお惣菜は受け取ってもらえず、申し訳ない。
隣のコンパートメントにいた二十歳そこそこくらいの中国人の女の子に話しかけられて、しばしおしゃべり。どうやら今日この列車に乗っているのはこの3人だけらしい。それなら節電モードで運行でも文句言えません。絶対赤字じゃないか〜。
その子曰く、「バスの方が安いからみんなそっちで行くんだと思うよ。私の友達もバスで行ったけど、私は寝台列車のほうが快適だと思う。」とのこと。そういえばアルメニアへ行くきっかけとなったコーカサス好きの旅人も、グルジア⇄アルメニアの行き来は専ら小型バスを使っていると言っていました。「バスの方が安いうえに早いからなんだろね〜」と結論づけましたが、それは結構その通りで後日私も「マルシュルートカ(通称マルシュ)」と呼ばれる小型バスに乗ってエレバンから再びトビリシへ戻ることになります。その件については次回、コーカサス地方 後編の記事に少し書こうと思います。
列車が動きだしました。
バクーよりもかなり控えめなトビリシの夜景です。バクーのよな高層ビルは目立ちませんが、遠くにトビリシテレビ放送タワーが見えました。写真の腕はお許しを。
出発したときにご婦人が十字を切ってお祈りしていたのを物珍しく思って、わたくしガン見してしまっていたようです(失礼!)。私の視線に気づくとご婦人は胸元の十字のネックレスを指して「神様にお祈りしたんだよ」と言って私を指さしてネックレスのジェスチャーをするので「?」と思ったら私の宗教を聞いているようでした。下手っぴな発音でBuddhistと言っても伝わらなかったので、合掌してブッディスト〜(なむなむ)と言ったら通じました。
そういえばグルジアでは教会前を通りかかった人が十字を切っていたのをよく見ました。信仰に熱心な人が多いのかもしれません。
バクー〜トビリシの時と同じような感じでリネン類が配布されて、ご婦人はササっと寝る姿勢に入ったので私は通路の窓際へ移動して晩酌を再開〜。外はほとんど闇だけど一応車窓を眺めつついただく。真っ暗だけど、水の気配がして川の横を走っているんだな〜というのが薄ら伝わってきます。
スーパーで買ったアジアンな味付けの鶏肉のお惣菜が遥か昔に給食で食べたような懐かしい味でおいしかったのですが、肝心な写真を残していませんでした。
グルジアはビールが2Lペットボトルに入って安く売っています。滞在中は名物のヒンカリ(餃子のような食べ物)と一緒に飲みまくってました。お酒飲みには良い国ですよ〜、ジョージア。
お腹も満たされたので私も寝支度をして布団の中に入りました。リネンから洗剤の香りがして心地よいです。
しばらくするとグルジアの出国手続きがありましたが、パスポートを渡してすんなり終了。
そしてまたしばらく走ってから今度はアルメニア入国手続きです。国境で係員2人が乗り込んできて、席までやってきました。今回の入国審査は少し緊張していました。私はグルジアの前にアゼルバイジャンを訪れています。アルメニアとアゼルバイジャンは国境地帯の領土をめぐる紛争の影響で仲が悪く、アゼルバイジャンのビザが見つかると色々と厳しく質問されることもあると聞いていました。私のパスポートにはばっちりアゼルバイジャンのビザが貼り付けてあるのでドキドキです。
係員の1人がパスポートをパラパラとめくると、アゼルバイジャンのビザが貼られたページを指でロック!そして「VISA …」と呟きます。ぎゃー!と焦りましたが、もう1人が「この人はヤポネ(日本人)だ」と言うと「こんにちは」と言ってくれて、滞在するホテル名以外は特に聞かれずに無事入国できました。先人の日本人旅行者たちがお行儀よく国境を通過してくれてたおかげでしょうか。とにかく、無事に済んで何よりです。
無事出入国が終わると、ご婦人が腕をバッテンにして、ミッション完了!みないなポーズを見せてきて可笑しかったです。私も「もう寝るだけだ!」とジェスチャーをして、あとはぐっすり眠りました。
朝起きるとまだ外は暗く、ご婦人は途中の駅で降りたのか荷物ごと居なくなっていました。ぼ〜っとしていると、隣の中国人の子が「次の駅だよ」と教えてくれました。
終点・エレバン駅に到着です。
下車後はその子と一緒に直結する地下鉄駅まで移動しました。エレバン駅は首都の駅としてはかなり閑散としているうえにド早朝のホームはまだ暗く、おまけに雨まで降っていて、1人だったらかなり心細かったと思います。
後日撮影した明るい時間のエレバン駅の写真を紹介して終わりにしたいと思います。
この駅舎は古典的な「スターリン様式」と呼ばれる建築様式だそうです。スターリン様式は豪華で左右対象で真ん中に細長いトンガリがあるのが特徴とのこと。まさしく!
こう見ると、到着時に見た薄暗い構内とは印象が全然違います。カラフルなペイントに遊び心が感じられていいですね。だだっ広いので少し寂しさは感じますが…。
★余談 エレバン子供鉄道
エレバンには「エレバン子供鉄道」と呼ばれるスポットがあります。私は現地に行ってからその存在を知ったのですが、なかなか良い場所だったのでそちらについても記録しておきます。
「子供鉄道」とは、旧ソ連などの社会主義諸国において子供たちが鉄道について専門的に学習するために存在する(した)補助教育機関のことを指します。子供たち向けに本物の鉄道に似せた設備を用意して、そこで学習してもらうわけです。そんな子供鉄道の施設がエレバンにもあるのですが、どうやら2015年頃から運行停止状態らしく私が訪れた時(2018年3月頃)には少しずつ廃墟の風格が出始めていました。
子供鉄道は渓谷沿いの公園の中にあります。遊具がたくさんある広い公園なのですが訪れた日が休園日だったのか遊具は稼働しておらず、あまり人の気配がありませんでした。写真だと枯れ木もあいまって廃墟のように見えますが、公園そのものは現役だと思います。
公園の奥の方まで進むと、子供鉄道の駅舎が見えてきます。
この色、連続するアーチ、真ん中のトンガリ。やはりエレバン駅にけっこう寄せている気がします。
駅舎の中に入ります。
壁は薄ピンクとパープルの優しい色合いで、なんだかおとぎ話に出てくるお城のような雰囲気もあります。窓や柱の形がかわいい。カラフルなステンドグラスが美しく、シャンデリアも華やかです。ただやはりしばらく使われていないせいか、壁に落書きもされて荒れた雰囲気になっています。隅にホウキ等掃除用品が置いてあります。散乱せずにきれいに置いてあるということはたまに清掃を行っているのでしょうか。
外へ出てみます。
建物の左右に屋根のある広場のような空間があるのですが、ここもアーチ状の開口部が続いて可愛らしい作りです。部外者の勝手な思いですが、せっかく素敵な建物なので是非また何かしらの形で日の目を見てほしいところです。
ここからホームに停車している列車を見下ろすことができます。屋根に積もった枯葉が動いていない年月を感じさせます。
ホームに降りましょう。
2つの車輌が並んで停車しています。単線ではなく複線なあたりが、遊びを目的とした施設との違いを感じます。
レールの先には古びた廃車輌が停まっていました。こっちはさらに長い間動いていなそうです。
振り帰ると駅舎と車輌が見えます。
車輌をよく見てみましょう。
車体のカラーリングは「子供鉄道」の名にふさわしい元気な印象を受けますが、これも実際に運行されてる車体に寄せたものなのでしょうか。
フロント部分には凝ったデザインのかっこいいエンブレムが取り付けられています。これも本物の鉄道に近いデザインなのかな。
子供鉄道の座席部分は所謂トロッコ列車です。線路沿いには小さな川が流れているので、晴れた日の運行は風が気持ち良かったんじゃないかな〜。奥に停まっている車輌はSL?
線路はずっと先まで伸びています。約2.1キロあるそうです。長い。
ちなみにこの線路沿いの道、地味にポツポツ人通りがあります。地元の人の抜け道的な存在なのかもしれません。少し歩くと線路が合流しました。そして写真左手にキロポストのようなものが設置してあります。こういうのも実習用としての設備でしょうか。
渓谷を見下ろすと、川の一部が岩で囲ってありました。そして隣にはベンチが並んでいます。なんだろう。温泉…?養殖場…?
更に歩くとトンネルが見えてきます。入り口の部分だけ落書きの被害に遭っていました。
満足したのでトンネルの途中で引き返して、子供鉄道探訪は終了としました。
余談部分が長くなってしまいました。次回はその4、コーカサス地方 後編です。