生活的答案

旅行記録ブログ

タクシー事件inバンコク

 

事件が起こったのは、タイの首都バンコクにある現代美術館を見た帰りのことでした。

当時(2018年初頭)は現在の美術館の最寄駅がまだ完成していなかったため、行きは比較的近いA駅からタクシーを拾ってアクセスしました。そのため、帰りも同じようにタクシーでA駅まで向かおうと美術館の敷地内にあるタクシー乗り場でスタッフに「A駅まで行きたいです」とお願いしてタクシーを停めてもらいました。停めてくれたのはバンコクでよく見るショッキングピンク色のタクシーで、大手会社なので安心して乗り込みました。

美術館スタッフの方が運転手に「A駅まで」と伝えてくれていましたが、乗車後すぐに手前にあるB駅の方が帰り道が楽だと気が付いて「行き先をB駅に変更できますか」と聞いたら「ダメだ」とのこと。

もうA駅と伝えてしまったから仕方ないのかな?と思い「じゃあ大丈夫です」と言いましたが、後から思えばこの時点でちょっと何かがおかしかったのかもしれません。でもショッキングピンク色のタクシーならバンコクで大手のタクシー会社ですし、特に気にせずにいました。

 

美術館の近くではスカイトレインという高架鉄道の駅が建設中で、タクシーの窓からもよく見えます。「これが完成したらもっと美術館へのアクセスが良くなるな〜」と思い、なんとなく駅の建設現場の風景を写真撮影しました。すると次の瞬間ドライバーが

 

「カメラ!○×*△@■!!!(たぶんタイ語

と怒鳴り出しました。

 

えっ!?と思いましたが、自分の写真を勝手に撮られたと勘違いしたのかな?と思いカメラをプレビューモードにして「あなたを撮ったわけじゃないですよ」と見せたら、

ドライバーがカメラを鷲掴みして奪い取り、運転席の窓を開いてカメラを外に投げようとしました。

 

( ゚д゚)!!!!??!??!??

 

一瞬の出来事で何がなんだか分からずパニックになりましたが、カメラを投げられるのだけは勘弁!!!!!!と思いとりあえず慌てて制止してカメラを奪い返します。しかしドライバーは目をギラギラさせて興奮状態でタイ語と思しき言葉を叫び続けます。

 

「だから!あんたの写真撮ったわけじゃない!!!!」と何度言っても「○×*△@■!!!!カメラ!!○×*△@■!!!!!」と怒鳴り散らすだけで話になりません。「外の景色を撮っただけだ!」「カメラ!!○×*△@■!!!」「何か勘違いしてるんじゃないのか!」「@☆○!×*△@■〜〜〜!!!!」といった具合で話はずっと平行線です。

 

お笑い芸人の平井“ファラオ”光に似ているドライバーは目を血走らせたまま大声で怒鳴り続けています。言い合いを続けているうちに状況のヤバさに対して現実感が無くなって感覚がフワフワしてきて、なんでこんなことになったんだろう(泣)とただ泣きたい気持ちでした。どう考えても自分は悪くないと思い必死に言い返し続けていましたが、知らん男に密室でずっと怒鳴られ続けるのは想像以上に恐怖で、私ここで死ぬのか…?と本気で思いました。

 

しばらく言い合いを続けていると、ドライバーが幹線道路の路肩(もちろん目的地ではない)で突然車を停めました。歩行者はいなくて車とバイクだけがビュンビュン走っている太い道路です。いやどこだよここ!!と思いましたが、誰もいない場所に連れて行かれて殺されることも考えていたので比較的交通量のある道路だったのは不幸中の幸いでした。怒り任せて適当な路肩に停めたような様子だったので、もしも言い争いの中でこちらから「降ろせ!」とか言っていたら逆に降ろしてくれなかった気もします。

 

車の外に出ると、ドライバーは叫びながら殴るポーズで詰め寄ってきました。殴られてはいません。殴るポーズで脅かす形です。さっきからカメラ投げ捨てそうで投げ捨てないし、殴りそうで殴らないという絶妙に理性があるのか無いのかよくわからない行動を見せてきます。でも殴るポーズで威嚇してくるファラオは普通にめちゃくちゃ怖いです。

その間もドライバーはずっと「カメラをよこせ!!!」みたいなことを恐らく言ってる様子だったのですが道路のそばにはドブ川が流れており、今カメラを渡したら今度こそ川に投げ捨てられそうです。そこで数日分の写真データのことは諦めてSDカードだけ抜いて「もうこれあげるから…」と渡したのですが、ファラオは納得しません。そこで改めてカメラをプレビューモードにして、中に入っている写真全てを順に再生して見せることにしました。

さっき食べた美味しかったアイスクリーム、遺跡でポーズを撮る自分、海での呑気な自撮り……近い将来に道端で震えながらファラオと揉めることなど知らずに旅行をエンジョイしている自分を見てなんだか泣きたくなりました。

数百枚にのぼる写真全てを見せると、ドライバーはやっと自分の勘違いに気づいた様子で運転席に戻りました。私も一度荷物を取りに車内に入りましたが、もちろん目的地まで乗り続けるつもりはありません。しかし「もうここで降りる!」と言ってもドライバーはなぜか「だめだ!!!!」と言って聞かず、またそこで少し言い合いになりました。最終的に現時点までのメーターの額を置いて車から離れましたが、ドライバーはまだ納得してない様子でワーワー言っています。

しかし交通量の多い道路で揉めていた我々は目立っていたようで、他のタクシードライバーやバイク運転手たち数名が「どうしたどうした」と集まっていました。彼らの視線が痛かったのか、しばらくするとタクシーは走り去っていきました。

 

タクシーが去ると、緊張が解けてスー……と涙が溢れてきました。こんな涙の流れ方は初めてでした。涙を流して突っ立っていると、集まっていた人々の中の1人が「ポリスに通報したほうがいい」と言って警察と繋がっていると思しき携帯電話を手渡してきました。この段階では「警察へ連絡」なんて考えてなくて、とにかく早く安全な場所で落ち着きたい気持ちでいっぱいだったうえ、そもそも自分でも状況が飲み込めていなかったのもあり警察に上手に説明できませんでした。

それでも集まった人々が「もう大丈夫だからね〜」と励ましてくれて、少しずつ落ち着いてきました。そして改めて「警察署へ行こう」と言われ、確かに結果的にカメラは無事だし殴られてもいないけど、今後運悪くファラオのタクシーに当たって同じ思いをする人を生まないためにも警察に通報はすべきだと思えてきました。

「ありがとうございます…警察行きます…。でもあのタクシーのドライバーの名前も車のナンバーも覚えてないです…😭」と半泣きで言うと、先ほど携帯電話を手渡してくれた男性が

「ナンバーならメモしてあるから大丈夫だ!!👍」と言って、ナンバープレートを控えたメモ用紙を見せてくれました。

 

Good Jobすぎる。゚(゚´Д`゚)゚。

 

メモにはあのタクシーのナンバーだけでなく、何かあったら証言できるからと集まっていた人々の電話番号まで書いてくれていました。その中の1人のタクシードライバー・Iさんが「警察署まで乗せていくよ」と言ってくれたのでお願いすることにしました。Iさんは警察署へ向かうまでの間も「もう大丈夫だよ〜」「水いる?」「カメラが無事でも警察へ行くのは何もおかしいことじゃない。悪いドライバーはカットされるべきだからね」とひたすら気遣ってくださり、ズタボロにやられていたメンタルに優しさが沁みました。頭が上がりません。警察署へは数分で着いたのですが、そこだと管轄外か何かだったようで、受付で人質丸雄一みたいなポーズをしてリラックスしている警察官に「ここじゃ受け付けないんですわ〜」と緩い対応で追い返されてしまいました。 

しかしIさんは嫌な顔ひとつせずに少し離れた所にある別の警察署まで連れていってくれて、警察への説明にも同席してサポートしてくれました。結局のところカメラも自分自身も無事だったのでたどたどしい説明にはなってしまったのですが、 無事にポリスレポートを書いてもらうことができました。

 

警察署からの最寄駅までIさんのタクシーで送ってもらったのですが、その途中でIさんが急ブレーキを踏みました。何かと思ったら目の前を走ってた車が追突事故を起こしていました。これにはIさんも「You は本当に bad dayだね」と笑っていました。思えばファラオのタクシーだって美術館の方に停めてもらったタクシーが偶然やばかったことがキッカケなのですから、今日は見事なまでの厄日です。

駅に着いたので事件現場から此処までの代金を払おうとしたのですが、断固として受け取ってもらえませんでした。仕事中に何時間も付き合わせてしまったのに…。そのうえ、ショッキングピンクのタクシー会社にも今回のことは報告するとまで言ってくれました(ちなみにIさんはグリーンの車体のタクシー会社)。

Iさんをはじめ、あの現場で集まってくれた皆さんには感謝してもしきれません。

 

当たり前のことですが、本当に最悪な奴もいれば、本当に優しい人もいるものです。先ほど厄日と書きましたが、すばらしい人たちとの出会いもありました。両極端な感情を味わう不思議な日でした。

 

ホテルに帰ってからは、ショックと疲れでぼんやりしていました。ひたすら横になって気持ちを落ち着けていたのですが、日が暮れる頃になると元気が戻ってきたのか「こんな気分のまま今日を終えるのはファラオに負かされたようでなんか嫌だ」という気持ちが沸々とわいてきて、トレインマーケットへ遊びに行きました。その道中も街中でピンクのタクシーを見るたびにビクビクしてしまいましたが、有名な上から見下ろしたテント群がとっても綺麗で癒されました。

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車関係のトラブルがあったら

・ナンバーをメモ!

・今後のためにも警察へ通報!

というのは行うべきだとは思うのですが、当事者になってみるとメモをする余裕なんてなかったし、私の場合は通報よりも「早くここから離れて落ち着きたい」という気持ちでいっぱいでそれどころではありませんでした。

あと海外旅行の注意情報をまとめたサイトなどで「タクシーに乗ったら車内にある運転手情報の写真を撮るとトラブルの抑止に繋がる」というのをよく見るのですが、それもケースバイケースだなと思いました。そして1人で旅行するというのは気を引き締める必要があると改めて考えさせられました。何かの参考になるような記事ではありませんが、これを読んだ皆さんのこれからの旅が安全で楽しいものとなるよう祈っています。